
ガザで明日を思い描く ― ガザから届く絵と声
2026年8月23日
明日のことを考えることさえ難しくなったガザで、二人の若者が、それぞれの方法で自分たちと地域の「その先」を考え始めました。子どもたちの学びを支え、一人は絵を描き、もう一人は地域のネット環境を整える仕事に取り組んでいます。福岡での展示・トークとオンライン学習会を通して、ガザから届く絵と声、その背景にある二人の歩みをお伝えします。

ハヤートナの活動には、長い間変わらない一つの思いがあります。
それは、人が今日を生きることだけでなく、明日やその先のことを思い描ける社会を支えることです。
ハヤートナ代表のヤスミンこと藤永香織は、20年以上前にガザで活動していた頃、同じような思いを持って活動する、現地の男性と出会いました。
やがて二人は結婚し、ビザの事情から離れて暮らすことになってからも、ガザで何ができるのかをともに考え、助け合いながら活動を続けてきました。
二人が掲げてきたのが、
「大人には仕事を、子どもには本を」
という言葉です。
食料や生活に必要なものを届けることは、今日を生きるために欠かすことができません。
同時に、人がその先を生きていくためには、働くこと、学ぶこと、誰かを大切に思うこと、自分にもできることがあると知ることも必要です。 そして、明日やその先にある自分の人生を思い描けること。
ハヤートナが長く大切にしてきたのは、そのための小さな足場をつくることでした。
しかし、活動を続けることが難しい時期が訪れます。 ヤスミンのパートナーは深刻な病のため活動することが不可能になり、ヤスミン自身もステージ4のがんの治療を続ける日々となりました。
そして、ガザでは戦争が始まりました。
ガザで避難生活を送る二人の息子、ムハンマドとマッスーシーにとっても、自分たちの将来を考えることは、いつしか現実から遠いものになっていました。
そんな息子との会話の中で、ヤスミンが尋ねたことがありました。
「好きな人はいるの?」
その問いから、誰かを大切に思うこと、その人との先の時間を考えることへと話が広がっていきました。
好きな人がいる。
その人と一緒にいたい。
その人との未来を考えてみる。
そして、自分たちにも将来のことを考えることが許されるのだろうか――。
少しずつ、自分たちの「その先」が二人の会話に現れるようになりました。
ちょうどその頃、二人は避難先でマイサという女性の先生と出会います。
マイサ先生は、十分な教室も教材もない中で、避難生活を送る子どもたちを集め、学びの場をつくっていました。 二人は、その寺子屋を手伝うようになります。
子どもたちが学べる場所を整える。
必要なものを探す。
先生と相談する。
子どもたちに食事やおやつを届ける。
自分たちの将来について考え始めた二人が、今度は子どもたちの将来についても考え、動き始めました。
現在、ハンユニスとマワシの二か所で、先生たちとともに寺子屋と子ども食堂(現在は食糧事情により「おやつクラブ」)の活動を続けています。
ハヤートナが寺子屋を支援している理由も、そこにあります。
ノートや鉛筆を届けることだけが目的ではありません。
そのノートを開いて学ぶ時間が生まれること。
先生が子どもたちを教え続けられること。
活動に関わる若者たちが、自分にも誰かのためにできることがあると知ること。
そして、子どもも大人も、その先にある明日について考えられるようになること。
ハヤートナは、現地の人たち自身が始めた活動を支えながら、そのための環境を一緒につくっていきたいと考えています。
寺子屋の活動と並行して、二人はそれぞれの仕事にも取り組むようになりました。
ムハンマドは、地域のネット環境を整える仕事をしています。
通信は、家族や友人と連絡を取るためだけのものではありません。情報を得ること、学ぶこと、仕事をすることにもつながっています。
「今は小さな仕事でも、いつか地域の人たちの雇用につなげていくことができないか。」
そんな先のことも考えながら、仕事を続けています。
もう一人のマッスーシーは、給水所で知り合った少年、ムハンマド君とファラフェルを作って販売する仕事を始めていました。ところが、ある日、強盗に襲われ、大けがを負います。
それまでのように身体を動かすことができなくなり、寝たきりで療養する日々が始まりました。
その時間の中で、マッスーシーが新しく覚えたのが、絵を描くことでした。
足を使って動くことができなくても、手は動かすことができる。
鉛筆を持ち、自分が見てきたガザを描く。
やがて、その手で描くことも、自分がガザのためにできることの一つなのではないかと考えるようになりました。
今回、福岡で展示されるのは、そうした時間の中でマッスーシーが描いた作品です。
鉛筆と色鉛筆で描かれた作品には、四色の猫たちが登場します。
作品を見て、まず「かわいい」と感じるでしょう。
けれども、猫たちの視線をたどっていくと、その向こうには、マッスーシーが暮らし、目にしてきたガザの日常があります。
なぜ、四色の猫を描くようになったのか。
なぜ、その猫たちにガザを見つめさせたのか。
そして、身体を自由に動かすことができなくなった一人の若者にとって、絵を描くことがどのような意味を持つようになったのか。
8月28日(金)から30日(日)まで、アクロス福岡で開催される「平和のための戦争展ふくおか2026」で、マッスーシーの作品を3日間展示します。また、8月29日(土)には、ハヤートナの活動についてのお話と、現地から届いた動画の上映を行います。
「平和のための戦争展ふくおか2026」
日時
8月28日(金)・29日(土)・30日(日)
10:00~19:00
※最終日は17:00まで
会場
アクロス福岡
福岡市中央区天神1-1-1
2階 交流ギャラリー・セミナー室
主催
「平和のための戦争展ふくおか」を成功させる会
マッスーシーの絵は3日間、交流ギャラリーで展示されます。
ハヤートナのトーク・動画上映
8月29日(土)11:00~12:00
アクロス福岡 2階セミナー室
また、同じ8月29日(土)の19時30分からは、「ひろがれ!ピース ミュージアム いたばし」主催のオンライン公開学習会が開催されます。
問題提起を行うのは、ハヤートナ代表のヤスミンこと藤永香織です。
彼女は毎日、ガザで暮らすムハンマドとマッスーシーと、インターネットを通じて連絡を取り合っています。
「今日も無事だった」
そのことを互いに確かめるための連絡でもあります。
けれども、通信環境が悪化したときや攻撃が激しくなったときには、電話はつながりません。
何度かけても応答がなく、そのまま時間が過ぎていくこともあります。
そして再び電話がつながれば、三人はその日にあったことを話します。
寺子屋のこと。
子どもたちのこと。
食べ物のこと。
仕事のこと。
攻撃のこと。
絵のこと。
そして、これからのこと。
そこから聞こえてくるのは、報道を通して知る「ガザ」だけではなく、そこで今日を暮らしている人たちの声です。
オンライン公開学習会
日時
8月29日(土)19:30~
主催
「ひろがれ!ピース ミュージアム いたばし」
問題提起
藤永香織(ハヤートナ代表)
■申込方法:下記URLより参加登録https://forms.gle/v87Y2QgEA1EZzT3u5
■参加費用:無料 ※ハヤートナへのカンパは大歓迎です。
■フェイスブック:https://www.facebook.com/PeaceMuseumItabashi.Campaign
■メールアドレス:peacemuse.itabashi@gmail.com
ガザについて伝えられるニュースの多くは、攻撃や犠牲者、食料、物資、支援の状況など、今そこで何が起きているのかを伝えるものです。 それらを知ることは、とても大切です。 食料や生活物資を届けることも、今日を生きるために欠かすことのできない支援です。
今回の展示と学習会では、そこからもう少し先にも目を向けていただければと思っています。
誰かを好きになること。
その人との将来を考えること。
子どもたちに勉強を教えること。
地域で仕事を始め、その仕事がいつか誰かの雇用につながることを考えること。
身体を動かせなくなったときに鉛筆を手に取り、自分にできる別のことを探すこと。
戦争の中で、明日のことを思い描くことは決して当たり前のことではありません。
だからこそハヤートナは、物を届けることだけではなく、人が自分の役割を持ち、学び、働き、誰かを大切にし、その先の人生について考えるための活動を、ガザの仲間たちとともに支えていきたいと考えています。
「大人には仕事を、子どもには本を」
20年以上前から大切にしてきたこの言葉は、今、寺子屋で学ぶ子どもたち、そこで活動する先生たち、そして自分たちの方法でその先へ進もうとする若者たちへとつながっています。
マッスーシーの絵、現地から届いた映像、そして日々交わされる言葉を通して、ガザで暮らす人たちの「今」だけではなく、その人たちが思い描こうとしている「明日」にも触れていただければと思います。